「きのこを愛でる・採る・食べる」をめいっぱい楽しむ〝菌活〟。その活動をライフワークとする「きのこ博士・牛島先生」が、鳥取県で見られる種をレクチャー。メイン写真をクリックすると、食用か否かがわかる、隠れコメントもあり!
文・写真/牛島秀爾
竹林で出合える美しき森の妖精
【アカダマキヌガサタケ】
野生きのこの季節は秋と思われがちだが、食毒を問わなければ一年中何かしらの種類を見ることができる。梅雨の季節が近づき、野山では「ギンリョウソウ」や「マタタビ」の花が咲きはじめ、雨が降り気温が上昇して多湿になってくると竹林に現れるのが「アカダマキヌガサタケ」である。
このきのこは、1976年に中国の雲南省で見つかり、新種として報告された。日本では鳥取市で採集されたきのこを基にした和名「アカダマキヌガサタケ」(漢字名:赤玉衣笠茸)とその水彩画が、1990年に日本きのこセンター(鳥取市)の機関紙『菌蕈』で紹介されて以来知られるようになり、今では北海道から九州までの分布が確認されている。
〝きのこの女王〟とも言われる高級食材の「キヌガサタケ」とよく似ているが、和名の由来でもある玉状の菌蕾が赤紫色であること、レース状のマント「菌網」が地上まで伸びないこと等で区別できる。古い竹の切り株の近くから生え、林床が整理された竹林に発生しやすい傾向がある。「キヌガサタケ」同様に美しく、また食用にできる。
きのこの本体は、赤紫色の菌蕾の中に折り畳まれるように入っていて、生長が始まるとスポンジのような白い柄が伸び、優雅にレースを広げる。傘の部分には多数の胞子を含む緑褐色で粘液状の「グレバ」があり、腐った果実あるいは腐葉土のような、なんとも言えない刺激臭を放つことで昆虫をおびき寄せる。飛来した昆虫たちの体には胞子が付着して、新たな地へ拡散される。生息域の拡大を虫に頼るというしたたかさを持つ一方、生長してから1日ほどでしなびてしまう儚さを持つきのこなのだ。
『きのこ図鑑 道端から奥山まで。採って食べて楽しむ菌活』
著者:牛島秀爾
出版社:つり人社
発行日: 2021年
サイズ:A5判(ページ数128ページ)
■このコラムに登場するきのこも紹介されています。
牛島秀爾(うしじま・しゅうじ) 文・写真
(一財)日本きのこセンター菌蕈研究所主任研究員。野生きのこの調査・分類などを行い、外来きのこ鑑定にも対応中。休日は身近なきのこを探しつつ、ブナ林の小川でフライフィッシングをしてイワナを観て歩いている。日本特用林産振興会きのこアドバイザー、鹿野河内川河川保護協会会員。