菌活で広がるきのこの世界

「きのこを愛でる・採る・食べる」をめいっぱい楽しむ〝菌活〟。その活動をライフワークとする「きのこ博士・牛島先生」が、鳥取県で見られる種をレクチャー。メイン写真をクリックすると、食用か否かがわかる、隠れコメントもあり!

文・写真/牛島秀爾

食用? 毒? 写真をクリック

春を告げる高級きのこ 

【アミガサタケ】

 きのこの季節といえばズバリ「秋」と思われるかもしれないが、アミガサタケ(編笠茸)は鳥取県では3月下旬から5月ごろの「春」に発生する。山の中よりもむしろ道端の肥えた草むらや公園、林道のこけむした側溝の周りなど、人の生活環境にかなり近く腐植に富む場所で見つかることが多い。また、イチョウやサクラなどの特定の樹種の周辺にもよく生える。

 アミガサタケは、トガリアミガサタケなどに代表される「ブラックモレル」とアミガサタケなどに代表される「イエローモレル」の2つに大別され、前者は頭部が黒褐色で頂部が尖るものを、後者は頭部が黄や茶色みなどを帯びたものを指す。大きいものは高さ10㎝を超え、頭部と柄の内部はつながっており、空洞なので見た目よりも軽い。

 分類学的にはトリュフなどと同じ子嚢(しのう)菌類(※)。一般的なきのこは傘の裏にあるヒダで胞子を形成するが、アミガサタケは頭部の網目を思わせるくぼみの表面に、子嚢胞子を形成する。きのこが新鮮であれば胞子が煙のように頭部から放出される瞬間を見ることができる。 

 欧米では「モリーユ」あるいは「モレル」などと呼ばれ古くから親しまれ、いわゆる日本の松茸のような位置付けで、高値で取引されている。肉質は(もろ)いが湯がくと弾力が出る。また乾燥させてから調理すると、いっそう香りと旨みが引き立つ。加熱が足りないと食中毒の原因となるので、注意が必要。きのこ栽培先進国の中国では、畑での人工栽培が確立している。また、日本でも岩手県で栽培試験の成功例も報告されており、近いうちに〝国産アミガサタケ〟が市場に出回ることも期待される。

 世界には100近い種があると言われ、形態的な特徴だけでは正確な分類は困難である。遺伝子解析や培養試験等が必要であり、日本産種の全貌はいまだ未解明の謎多ききのこだ。

(※)子嚢菌類とは、子嚢と呼ばれる袋状の器官の内部に胞子をつくる菌類のこと。

『きのこ図鑑 道端から奥山まで。採って食べて楽しむ菌活』

著者:牛島秀爾
出版社:つり人社
発行日: 2021年
サイズ:A5判(ページ数128ページ)

■このコラムに登場するきのこも紹介されています。

【Profile】
牛島秀爾(うしじま・しゅうじ) 文・写真

(一財)日本きのこセンター菌蕈研究所主任研究員。野生きのこの調査・分類などを行い、外来きのこ鑑定にも対応中。休日は身近なきのこを探しつつ、ブナ林の小川でフライフィッシングをしてイワナを観て歩いている。日本特用林産振興会きのこアドバイザー、鹿野河内川河川保護協会会員。