花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

境港市で開かれた第1回世界妖怪会議(1966年8月)

花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

妖怪文化を啓蒙へ協会創設

境港市で開かれた第1回世界妖怪会議(1966年8月)

 「いよいよ立ち上がるんですよ!水木サン(自身のこと)は世界妖怪協会を創設し、会長になります!アンタも協力してください」。

 水木さんに呼ばれ、東京都内の事務所に出向いたのは1996年1月。開口一番、鼻息も荒く、嬉々とした表情で語る水木さん。聞けば、世界中にある妖怪・精霊・お化けなどを研究し、それら霊文化の啓蒙活動を行う組織であり、定期的に機関誌を発行し、毎年世界妖怪会議(※)を開催するとのこと。

 水木さんは、この数年前から「神、霊魂、妖怪、幽霊。それぞれ姿は違ってもみんな精霊。なかでも妖怪は、世界のどの民族にも約1000種いる」という「妖怪千体説」を口にし始めていたから、私は「水木妖怪ワールドの集大成か」と思った。

 その年の8月、境港市で第1回世界妖怪会議が開かれ、私が司会を務めた。出席者は水木さんの他、作家の荒俣(あらまた)宏、京極(きょうごく)夏彦さん、妖怪研究家の多田克己、林巧さん。それに民族音楽研究者の山田陽一さんと実に錚々(そうそう)たる顔ぶれだった。

 「いやぁ、ほんとは大儀なんです。もう 73歳だからのんびりしたいのに、頭の中の助手席に宇宙から派遣された誰かが座ってて、”こっちへ行け!”と命令されとる按配(あんばい)です」 

 前年に8回の海外冒険旅行をこなし、42 冊の書籍を出版した御大は顔を歪めてみせた。

※世界妖怪会議=2008年の第13回まで全国各地で開催。

妖怪ファイル>No.1

べとべとさん

後ろから足音、ドキドキの夜道

 第1回世界妖怪会議のポスターに使用された妖怪は「べとべとさん」。柳田國男の『妖怪談義』(1957年、講談社学術文庫)によれば、奈良県の宇陀うだ郡に現れた「後から誰かがつけて来るような足音」をさせる妖怪だという。

 水木さんも生まれ故郷の境港さかいみなと市で小学生の頃に出会った。兄の宗平さんと下駄で歩いていると、後ろから同じような下駄の音がついてきたのだ。2人ともハッとしたが、胸がドキドキして振り向こうにも振り向けない。

 恐くなって走って家に帰ると、当時家に出入りしていた家政婦、のんのんばあが「それはべとべとさん」と妖怪の名前を教え、「ちょっと脇に寄り『先へおこし』と言えばいい」と対処法も教えてくれた。のんのんばあは信心深い老婆で、水木少年の〝妖怪の先生〟だった。

 べとべとさんは、このほか似たような〝目撃情報〟が全国各地であるらしい。

▼参考文献:『妖怪画談』(1992年、水木しげる著、岩波新書)
『決定版 日本妖怪大全』(2014年、水木しげる著、講談社文庫)
               

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足立倫行(あだち・のりゆき)
ノンフィション作家。境港市生まれ。同郷の先輩である水木しげるさんに約2年間密着取材し、『妖怪と歩く ドキュメント水木しげる』(1994年新潮文庫)※を刊行。主書に『日本海のイカ』『北里大学病院24時』『血脈の日本古代史』など。
※今井書店より復刻版発売中
ミギワン
漫画家・イラストレーター。石川県生まれ、鳥取県育ち。
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