花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

楽しそうに妖怪画の彩色作業をする水木さん

花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

漫画は苦しい、妖怪は楽しい

楽しそうに妖怪画の彩色作業をする水木さん

 東京・調布市の水木プロに通っていた頃、水木さんが漫画を描いている場面を一度も見たことがなかった。アシスタントたちへの指示はしていたが、作品の基盤となる下書きやネーム(台詞)入れは、夕方から夜にかけ、一人で個室にこもってやっていたからだ。そのかわり、よく目にしていたのが、古今東西の妖怪画の彩色作業。応接間に隣接している小部屋で、机の上に紙芝居作家時代から使っているという染粉(絵具)の瓶と絵皿を並べ、楽しそうに色を塗りながら水木さんは言ったものだ。

 「漫画は筋を考えにゃいかんから、なかなか苦しい。でも妖怪は一枚絵ですからね。形や色を考え出すのが面白いし、描いてると次第に元気が出てくるんです」

 一枚絵の妖怪画を始めたのは、一時漫画の注文が減り時間の余裕ができた頃だった。アシスタントの仕事の確保と、自分の時間潰しのため始めたのだが、それが後年に至り妖怪画の辞典『日本妖怪大全』(1991年、講談社)やベストセラーとなった妖怪の解説書『カラー版妖怪画談』(92年、岩波書店)に結実、商売の面でも正解だったことになる。

 「それに漫画は作り話だけど、妖怪は本当に世界中におるわけですからね、ついつい力が入るわけですよ、ワハ、ワハハ」

 当時、70歳前後の水木さんの口癖は「漫画を描きながら死ぬなど、まっぴら御免!」だった。

妖怪ファイル>No.2

一反木綿

怖いのに抜群の人気!

 境港市観光協会が企画に関わった市の土産品に、鬼太郎の妖怪軍団のメンバー・一反木綿をモチーフにした 「境港妖羹ようかん」がある。小豆羊羹ようかんの上に空に見立てた寒天を乗せ、ひらりと舞う一反木綿を白あんで表現した。

  なぜ「一反木綿」が市を代表する商品の顔に選ばれたかといえば、10年ほど前に市が実施した妖怪人気投票で、 「目玉おやじ」や「ぬりかべ」などを抑えて堂々の第1位に 輝いたから。

 「一反木綿」は、民俗学的には鹿児島県の大隅地方に出現したとされる妖怪。一反(約10㍍)ほどの白布が夜間 どこからか飛来し、人の首に巻きつき窒息させる。

 本来は怖い妖怪なのに、抜群の人気を誇るのは、おそらく水木さんによるスマートな造形と、軍団の中で唯一 空を飛べるメンバーであり、イザという時に鬼太郎たちを 乗せて自在に移動できる、その頼もしさのせいだろう。

▼参考文献:『図解 日本妖怪大全』(1994年、講談社+α文庫)

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足立倫行(あだち・のりゆき)
ノンフィション作家。境港市生まれ。同郷の先輩である水木しげるさんに約2年間密着取材し、『妖怪と歩く ドキュメント水木しげる』(1994年新潮文庫)※を刊行。主書に『日本海のイカ』『北里大学病院24時』『血脈の日本古代史』など。
※今井書店より復刻版発売中
ミギワン
漫画家・イラストレーター。石川県生まれ、鳥取県育ち。
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