花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

ティータイムを楽しむ水木夫妻

花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

『河童の三平』、原点は布枝さんの故郷

ティータイムを楽しむ水木夫妻

 水木さんのディープなファンは、「『河童の三平』が一番好き」と言う人が多い。

 というのも、この作品は物語全体がゆったりと自然に包まれ、水木さんの好きな糞尿や放屁の話もたっぷり。「死神」を巻き込んだギャグも豊富で、まさに元祖「水木ワールド」なのだ。

 こうした特徴から、物語の舞台は、水木さんの郷里の境港(さかいみなと)と考える人もいるが、それは違う。三平の家は山奥の一軒家、近くに大きな川もある。ところが境港は砂州(さす)でできた平坦な町であり、ここの風景ではなさそうだ。

 『河童の三平』の発端は、復員後に水木さんが「思いつき」で姪に語った寝物語だ。それが紙芝居、貸本漫画へと続き1968年、少年漫画雑誌『週刊サンデー』(小学館)版で完成した。

 「実は、家内((ぬの)()夫人)の故郷に行って刺激を受けたんです」。

 水木さんが結婚したのは、1961年のこと。布枝さんの故郷、島根県安来(やすぎ)市大塚町には、私も訪れたことがあるが、山に囲まれた水田の中の古風な町だ。近くの伯太(はくた)川の両岸は(よし)に覆われ、いかにも河童が出そうな気配が漂う。加えて、安来市は出雲(いずも)地方でもあり、「出雲は霊気の地」と定義する水木さんは、「結婚を決めたのは、家内が出雲の人だったから!」と、楽しげにのたまった。

妖怪ファイル>No.3

河童

各地で名称や姿に違い

 河童は川や池など水界に棲む妖怪。日本で広く親しまれている身近な妖怪でもある。童子どうじの姿をしており、頭の皿に水をたたえ、腕は抜けやすい。好んで相撲を取りたがり、田植えを手伝ってくれたりするが、時に人馬を水中に引き込んで肛門から肝を抜き取るなど、危害を加えることがある。

 ただし、目撃談は多いものの、各地で名称と形態はかなり違っている。河童は主に関東地方の名称で、北陸ではカメに似た「ガメ」、島根・広島ではカワウソ風の「カワッソ」、九州では鳴き声から「ヒョースボ」とも呼ばれる。

 『妖怪草紙』(※)では、妖怪評論家の荒俣宏氏が、河辺の怪異を示す河童は「ヌルヌル」系と「毛がある」系の2つに分かれると指摘。要するに「カメ・スッポン」系と「サル・カワウソ」系だ。

 対談相手の民俗学者・小松和彦さんによれば、河童ばなしは江戸時代に盛んになったが、河童の源流は、中世(鎌倉・室町時代)河原に住んで土木工事など各種の仕事をこなした河原者かわらもの(川の民)、とのこと。

▼参考文献:荒俣宏・小松和彦著『妖怪草紙 あやしきものたちの消息』(1987年、工作舎)

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足立倫行(あだち・のりゆき)
ノンフィション作家。境港市生まれ。同郷の先輩である水木しげるさんに約2年間密着取材し、『妖怪と歩く ドキュメント水木しげる』(1994年新潮文庫)※を刊行。主書に『日本海のイカ』『北里大学病院24時』『血脈の日本古代史』など。
※今井書店より復刻版発売中
ミギワン
漫画家・イラストレーター。石川県生まれ、鳥取県育ち。
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