花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

井村さん(中央花の帽子着用)が館長を務める「妖精美術館」(福島県金山町)開館記念パーティーに駆けつけて祝福した水木さん(1993年9月)

花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

「妖精」はヨーロッパの「妖怪」

井村さん(中央花の帽子着用)が館長を務める「妖精美術館」(福島県金山町)開館記念パーティーに駆けつけて祝福した水木さん(1993年9月)

 キリスト教の伝来以前、ヨーロッパ全土には、ケルト(※1)の文化が広がっていた。今日、「妖精」と呼ばれるものの多くは、そのケルトの神々を源流としている。例えばイングランドで有名な小人の妖精・ピクシー。緑色の服を着て、赤い髪にとがった耳、やぶにらみの目をしており、旅人を道に迷わせたりするいたずら者だ(被害を避けるには、上着を裏返しに着るといい)。

 水木さんは1990年2月にケルト・ファンタジー文学研究家の井村君江さんとNHKラジオで対談した。井村さんによれば、キリスト教によって悪魔や堕天使として追放されたケルトの神々は、その後も人々の無意識の世界に生き続け、シェイクスピアの作品やビクトリア朝の画家の絵画などにより、個性豊かな「妖精」に生まれ変わったという。

 その対談で井村さんのイギリス調査旅行の話を聞いた水木さんは、即座に同行を申し出て、翌3月にコーンウォール(イングランド南西部)、マン島、アイルランドなどを回った。水木さんは、コーンウォールの巨石遺跡などで、「妖精」の気配を実感したという。

 「妖精も妖怪も根本的に同じ。彼らが人間に、自分たちの存在を気づかせようとして、信号を送っているんじゃないか」。

 井村さんも「300以上の妖精がいるとするケルト文化は、「八百万(やおよろずの)(かみ)」(※2)を信じる日本人には受け入れ易い」と語っている。

※ケルト=古代ヨーロッパの中・西部に住み,ケルト語を使用した人々。
※八百万神=きわめて多くの神々。森羅万象に神の存在を認める古来日本の神観念。

▼参考文献:水木しげる著『日本の妖怪・世界の妖怪』(平凡社、2018年刊行)
 水木しげる著『水木サンと妖怪たち』(筑摩書房、2016年刊行)

妖怪ファイル>No.4

座敷わらし

いると栄え、去ると没落

 旧家の座敷に住みついている童子(わらし=子ども)の姿の妖怪が「座敷わらし」である。赤い顔をしているが、その家の主人でもなかなか姿を見ることができない。ただし「座敷わらし」が家にいる間は栄えるけれど、去ってしまうと没落する、とされる。

 なぜ家の守護者が子どもの姿をしているかといえば、民俗学者・柳田國男によれば、古い時代には「(神が)童子によって神意を伝えたまうことが多い」からだという。すすけたりしわになったりしない若葉のような新しいもの(魂)を、人々は珍重したのだ。

 同種の妖怪で家の蔵に住みついているのが「倉ぼっこ」。「倉ぼっこ」は子どもの姿ではなく、火防ひぶせの神として祀られてきたが、柳田の本では、「座敷わらし」も火事の前触れができ、防火力があった、とのこと。水木しげるロード(境港さかいみなと市)には両方のブロンズ像がある。

 なお、北関東の旧家出身の井村さんは、「祖母が座敷わらしを見た」と語っている。

▼参考文献:水木しげる著『妖怪画談』(岩波新書、1992年刊行)
 柳田國男著『妖怪談義』(講談社学術文庫、1977年刊行)

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足立倫行(あだち・のりゆき)
ノンフィション作家。境港市生まれ。同郷の先輩である水木しげるさんに約2年間密着取材し、『妖怪と歩く ドキュメント水木しげる』(1994年新潮文庫)※を刊行。主書に『日本海のイカ』『北里大学病院24時』『血脈の日本古代史』など。
※今井書店より復刻版発売中
ミギワン
漫画家・イラストレーター。石川県生まれ、鳥取県育ち。
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