花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

路傍に道祖神を見つけ、急に生き生きとする水木さん(福島県)

花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

3兄弟の極上ティータイム

路傍に道祖神を見つけ、急に生き生きとする水木さん(福島県)

 水木さんの本名は()()茂。2歳ずつ違う3兄弟の次男坊である。

 長く水木プロダクションのマネージャーを務めた弟の幸夫(ゆきお)さんは「武良三滴」の俳号を持つ俳人で、次の句がある。

(うぐいす)餅 四時の抹茶や 三兄弟』

 これは、取材中、私が何度となく水木プロで目にした光景。長兄の宗平さん(水木プロの元代表)が午後に事務所に姿を現すと、毎日のように3兄弟のティータイムが始まるのだ。もちろん、鴬餅が今川焼や大福のこともあり、抹茶が紅茶、珈琲のことも。たびたび目撃するので、「そうか、水木さんにとっての『真の友人』は兄弟なんだな」と納得した。

 というのも、仕事絡み以外の友人から水木さん評を聞こうと探したが、実に苦戦したから。(唯一紹介されたのは果物屋の主人。「会話はないけど買い物の駆け引きが快感」の友人!?らしい)。

 進学や就職に挫折し、戦争で片腕を失くし、戦後も食うや食わずで、ずっと社会の傍流(ぼうりゅう)を歩んできた水木さん。どの段階でも友情を育む余裕などなかったのだろう。唯一濃密な人間関係は家族、特に少年期を共有し苦難の戦後を支えてくれた兄弟なのだ。

 「あの時はどげだった?」「ああアレは、正やんがおらんかったけん……」

 菓子の皿を回しながら、飛び交う方言。水木さんの実に満ち足りた表情が印象に残っている。

妖怪ファイル>No.5

ナマハゲ

恐がらせつつ福を招く

 2018年11月、全国10地域の伝統行事が、「来訪神らいほうしん:仮面・仮装の神々」としてユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された。

 そのうち、「男鹿おがのナマハゲ」(秋田県)は、大みそか(元は小正月)の夜、鬼の面をつけてワラの衣装を着た神が「泣く子はいねがー(いないか)」と大声を出し家々を訪れる厄払いの行事。

 手に持つ包丁で、「ナモミ」(火にあたると肌にできる赤いまだら模様)を剥ぐ。これを冬場に怠けがちな人心への戒め「ナモミ剥ぎ」と言い、「ナマハゲ」の語源とされている。

 一方、南方の3地域の神(薩摩硫黄島のメンドン、悪石島あくせきじまのボゼ、宮古島のバーントゥ)は旧暦の夏の行事に登場。本来が山の神(祖霊神、農業神)であるナマハゲなどの北方の来訪神とは、やや性格が異なるようだ。

 しかし10地域の来訪神はいずれも、仮面・仮装で恐がらせつつ福を招く異形の神、つまり行事に取り込まれた「生ける妖怪」と言える。

※来訪神:年に1度、人々の世界に来訪して,豊作や幸福をもたらすとされる神々

※テキストの流用や写真・画像の無断転用を禁止します。

足立倫行(あだち・のりゆき)
ノンフィション作家。境港市生まれ。同郷の先輩である水木しげるさんに約2年間密着取材し、『妖怪と歩く ドキュメント水木しげる』(1994年新潮文庫)※を刊行。主書に『日本海のイカ』『北里大学病院24時』『血脈の日本古代史』など。
※今井書店より復刻版発売中
ミギワン
漫画家・イラストレーター。石川県生まれ、鳥取県育ち。
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