花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

居留地巡りの際、アリゾナ州でグランドキャニオンに立ち寄る。旅行中は3台のカメラで激写、また激写・・・の連続だった(1993年6月)

花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

太平洋を挟んだ2人の〝ヒーロー〟

居留地巡りの際、アリゾナ州でグランドキャニオンに立ち寄る。旅行中は3台のカメラで激写、また激写・・・の連続だった(1993年6月)

 1993年6月、水木さんと共に約10間の日程でアメリカ先住民(ネイティブ・アメリカン)の居留地巡りに出かけた際のこと。行く先々でなぜか同じ質問を受ける。

 「あの人、イノウエ上院議員?」「ダニエル・イノウエさんなの?」

 水木さんと私、加えてビデオ撮影しているカメラマンにも、口々にそう尋ねてくるのだ。

 聞けば、ダニエル・イノウエさんとは日系の上院議員で、片腕の「第二次世界大戦の英雄」としてアメリカでは有名人とのこと。水木さんの年格好と片腕、ビデオを向けられ随員(ずいいん)(私?)(※)もいることなどで、間違えられたらしい。その時は水木さんも私も「あ、そう」とさらりと流したが、帰国してからよく調べると、その共通点に驚くことになる。

 ハワイ出身のイノウエさんは、21歳の時に戦地で右腕を負傷し、切断。医師への道を諦めて政界へ。一方、水木さんは、22歳の時に同じく戦地で左腕を負傷、切断し、画家の道を諦め漫画界へ。両人とも新天地で成功している。

 極め付きは故郷の空港名だ。功績により、米子(よなご)空港は米子鬼太郎空港(愛称:2010年7月~)と呼ばれ、ホノルル国際空港はダニエル・K・イノウエ国際空港(17年4月~)に変わった。

 「他人の空似」以上の共通点。太平洋を挟んだ〝ヒーロー〟たちの不思議な(えにし)ではないか。

※随員=地位や身分の高い人につき、随行する人

妖怪ファイル>No.6

付喪神

器物に宿る霊魂 

 古来、長い年月を経た器物(うつわもの)には霊魂が宿るとされてきた。これを付喪つくも(九十九)がみと呼ぶ。「つくも」とは、非常に古いの意味だ。

 有名なのは室町時代後期の『百鬼夜行ひゃっきやぎょう絵巻』。琵琶・琴・浅沓あさぐつ(※)・大鍋など、古くなって捨てられた器物たちが鬼や野獣のような妖怪と化し、思い思いの格好で真夜中の京の町を練り歩く図だ。江戸時代にさまざまな脚色がされ、面白い印刷物として大流行した。

 水木さんはエッセー『器物に宿る霊』の中で、紙芝居作家時代に古道具屋で買った大きな黒机のことを書いている。

 愛着があって捨てられず、東京で漫画家になっても家に置いた。その机を居候の漫画家が借りて使い、何と4脚を短く切ってしまった。彼は間もなく漫画界から脱落する。次に譲り受けたアシスタントは大切に使ったところ、ある日、大地主の娘と結婚、以後一生働く必要がなくなった。「偶然だろうか」と水木さんは記すのだ。

▼参考文献:水木しげる『不思議旅行』中公文庫、1984年

※浅沓=公家が装束を着けたときにはく浅い靴

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足立倫行(あだち・のりゆき)
ノンフィション作家。境港市生まれ。同郷の先輩である水木しげるさんに約2年間密着取材し、『妖怪と歩く ドキュメント水木しげる』(1994年新潮文庫)※を刊行。主書に『日本海のイカ』『北里大学病院24時』『血脈の日本古代史』など。
※今井書店より復刻版発売中
ミギワン
漫画家・イラストレーター。石川県生まれ、鳥取県育ち。
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