花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

「ビッグフット」の足跡(?)を見せる水木さん(カリフォルニア州にて)

花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

美しい貧乏などないっ!

「ビッグフット」の足跡(?)を見せる水木さん(カリフォルニア州にて)

 足かけ3年の水木さんの密着取材中に、水木さんから「私、怒ってます!」と聞いたのは一度だけだ。

 1993年、作家の中野孝次さんの『清貧の思想』(草思社)がベストセラーになった年のこと。書店でたくさん平積みになっていた。それを確認した水木さんが吠えたのだ。

 中野さんは、こう記した。 「日本にはかつて清貧という美しい思想があった。所有に対する欲望を最小限にすることで、逆に内的自由を飛躍させるという逆説的な考えがあった」(『清貧の思想』)。

 バブル崩壊後も残る金満志向に一石を投じたかったのだろう。「知識人」の啓蒙的な主張と考えれば、別に不思議はないのだが、水木さんには「清貧」の2文字が許せなかった。

 「清い貧乏、美しい貧乏って何です?貧乏は生きるか死ぬか。赤貧(せきひん)あるのみ!」

 水木さんは紙芝居作家時代から貸本マンガ家時代まで、長く辛い極貧生活を送った。結婚後も原稿は売れず、売れても原稿料を値切られた。それでも支払われればいい方で、手形が不渡りになったり、出版社自体が倒産したり。一山50円の腐りかけのバナナを2人で食べるのが唯一のゼイタク……。

 「本当の貧乏人は、清貧を拒絶します!」。毅然として言い放ったのは、無理もない。

妖怪ファイル>No.7

たいだらぼっち

変化、分岐した巨人妖怪

 日本には、さまざまな巨人妖怪がいる。

 「だいだらぼっち(大太法師)※1」は、もともとは国づくりの古い神だった。土を運んで山(富士山、榛名山はるなさんなど)を作り、足跡や手をついた跡が湖沼(榛名湖や浜名湖など)になったと伝えられる。

 だいだらぼっち伝説は東日本や北日本に多いが、九州で目立つのは大人(おおひと)弥五郎(やごろう)伝説。こちらも山や湖を作るものの、単なる怪力の妖怪ではなく、日本武尊やまとたけるのみこと(※2)に滅ぼされた隼人はやと(※3)の族長だったという説もある。

 時が過ぎ、巨人妖怪は変化し、分岐した。例えば見上げるほどに大きくなる「見越し入道」や「のびあがり」。前者は「見越し入道、見抜いた」と唱えると追い払えるとか、後者の正体は獣の大カワウソだとか、より〝妖怪らしく〟なった。

▼参考文献:柳田國男『妖怪談義』(講談社学術文庫)

※1大太法師=語源は一寸法師の対極
※2日本武尊=日本の古代史における伝承上の英雄。
※3隼人=古代日本で阿多(あた)・大隅(おおすみ)(現:鹿児島県)に居住した人々

※テキストの流用や写真・画像の無断転用を禁止します。

足立倫行(あだち・のりゆき)
ノンフィション作家。境港市生まれ。同郷の先輩である水木しげるさんに約2年間密着取材し、『妖怪と歩く ドキュメント水木しげる』(1994年新潮文庫)※を刊行。主書に『日本海のイカ』『北里大学病院24時』『血脈の日本古代史』など。
※今井書店より復刻版発売中
ミギワン
漫画家・イラストレーター。石川県生まれ、鳥取県育ち。
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