花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

トペトロの葬儀を主催することになり、ゴキゲンの水木さん(1994年、ラバウル)

花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

パウロ讃歌を浴びた水木さん

トペトロの葬儀を主催することになり、ゴキゲンの水木さん(1994年、ラバウル)

 ラバウル(※1)のトライ族の村長トペトロが亡くなって3年後の1994年、水木さんは彼の葬儀のため、現地に渡る。その際、私も同行した。

 トペトロは水木さんの命の恩人。戦時中、食物を運んでくれた現地の少年だった。だが到着すると、息子たちは「葬儀費用がない」と言う。そこで水木さんが、二つ返事で主催者を引き受けた。

 元ラバウル市長が間に入って、丸2日で準備を整えた。墓の整備、墓前での昼食、その後のシンシン(民族舞踊)、(ばい)()(※2)の陳列、ごちそうの大盤振る舞い…。シンシンは、仮面をかぶり腰に青葉をまいたトゥブアン(精霊)が登場する独特のダンス。水木さんも、はしゃいで飛び入り参加した。

 数百人の参列者がもっとも喜んだのは、最後に配られた豚肉だった。生肉は日頃入手できない贅沢品だ。スカートに隠して2度並んだり、子どもを何人も列に並ばせたりと大騒ぎ。

 「パウロ!サンキュー、パウロ!」と、パウロ讃歌を浴びた。

水木さんは、戦時中からずっと「パウロ」と呼ばれてきたのだ。キリストを迫害する側から一転してキリスト教の聖者となったパウロ。全員がキリスト教徒の村人にとって、寛大・公平な日本人はパウロそのものなのだろう。

 「墓で般若心経唱えたんですけどね」

 このとき、心境について問うと、水木さんは片目をつぶってそう答えた。

※1ラバウル=パプアニューギニア独立国の都市
※2貝貨=貝殻を材料とした貨幣。

妖怪ファイル>No.10

アマビエ

人々を疫病から守る

 今年はコロナ禍の年。SNSには疫病除けの妖怪アマビエについて投稿する人が急増し、各地で菓子・Tシャツなど関連グッズも続々作られた。

 水木さんの『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』(講談社文庫)によれば、肥後国ひごのくに(熊本県)の海中に毎夜光るものが現れ、「私はアマビエ。今後6年間は豊作だが、病が流行(はや)ったら私の写し絵を人々に見せよ」と言って去ったという。

 挿絵は長い髪にクチバシ、ウロコに覆われた胴体の「鳥のような人魚?」だ。1846年の瓦版を元にしているが、水木版では片腕が描かれたうえに鋭い4本爪もある。民俗学的には「予言獣」と呼ばれ、農作の豊凶と疫病の流行とをセットで人々に告げる。食と病は生命に直結するが、科学や医療が未発達な時代には伝承を信じて祈るしかなかった。

 現代では当然、さまざまな防御や撃退策がとられる。にもかかわらず、私たちがアマビエにすがりたくなるのは、受け継いだ〝恐怖DNA〟のせいか?

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足立倫行(あだち・のりゆき)
ノンフィション作家。境港市生まれ。同郷の先輩である水木しげるさんに約2年間密着取材し、『妖怪と歩く ドキュメント水木しげる』(1994年新潮文庫)※を刊行。主書に『日本海のイカ』『北里大学病院24時』『血脈の日本古代史』など。
※今井書店より復刻版発売中
ミギワン
漫画家・イラストレーター。石川県生まれ、鳥取県育ち。
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