3人のゴール、2人のスタート
私の偏った漫画遍歴はあだち充から始まった。
ある日、年の離れた親戚のお姉さんが我が家に持ち込んだ漫画本の山。あだち作品を網羅していたそれが、いたいけな私を『陽あたり良好!』や『みゆき』や『ナイン』を愛読するややシブ少女になるべく運命づけたのである。物語を渇望していた幼い日、繊細な心理描写で魅せる〝あだち節〟の機微も十分にくみ取れないまま、懸命に背伸びしつつ、これらをむさぼり読んで私は育った。
あまりに見慣れた〝鳥取〟の2文字が、異物として視界に飛び込んできたのは、『タッチ』の最終巻を読んでいたときのことだ。本の中に現れたのは生活圏内の〝じげ〟の風景。そこにタッちゃんと南ちゃんがいた。漫画と現実が突然地続きになった衝撃は、田舎のオタク小学生を強烈に揺さぶった。
「人の迷惑も考えず、ずいぶん遠いところで(インターハイを)やってくれるよな」
作中のセリフに見た、日本の中の鳥取、という俯瞰図は幼心に鮮やかだった。思えばこれが、本を通して〝故郷〟を意識した最初の記憶かもしれない。
袋川(鳥取市)と思しき河川敷で、達也と南がまっすぐ向き合う本作のクライマックスシーン。双子の弟・和也亡き後、常にその「代打」のような役回りを担ってきた達也は、このときはじめて、一人の男として彼自身の人生のスタートラインに立った。甲子園を夢見た〝3人〟の幼なじみたちの物語は、鳥取という辺境の地でひとつの実を結び、やがて、切なくも爽やかな大団円を迎える。
南の新体操の競技会場となった「鳥取市民体育館」は、老朽化のため、今春、惜しまれつつ解体された。正面大階段前のバス停の位置まで忠実に描写された往時の雄姿はしかし、国民的名作のフィナーレを飾る舞台として、ページの上に生き続けるだろう。記念すべき私の新連載初回にあたり、版元が書影の掲載許可をくれなかったことなど、この感動の前には些末なことであって、別に全然、気にしてなんかいないのである。