恒例の「お化け大会」に呼ばれ、タカラジェンヌたちに挨拶する水木さん。戦前19歳の頃、水木さんは宝塚歌劇団ファンだった(1993年、兵庫県、宝塚ホテル)
「ねずみ男」がお気に入りのワケ
恒例の「お化け大会」に呼ばれ、タカラジェンヌたちに挨拶する水木さん。戦前19歳の頃、水木さんは宝塚歌劇団ファンだった(1993年、兵庫県、宝塚ホテル)
水木ワールドで、たくさんのキャラクターを作りだした水木さん。「一番好きなキャラクターは?」と問われると、必ず「ねずみ男です」と答える。
ねずみ男は非常に特異なキャラクターだ。妖怪と人間の間に生まれた半妖怪。僧衣のような布一枚を身にまとい、武器は強烈な口臭と放屁。それに口から出まかせの詭弁を操る。何よりユニークなのは、目先の欲望に駆られた詭弁によって、仲間であるはずの鬼太郎を平気で裏切ること(鬼太郎は裏切りを許すので、次回も平然と再登場する)。
こんなキャラクターは、それまでのマンガ界では皆無だった。水木さんはなぜねずみ男を作り出し、なぜ一番好きなキャラクターなのか、聞いてみたことがある。
「鬼太郎は人類のため、正義感で闘うスーバーボーイ。でも、実際にはそんな人間いないでしょ?だから、正義をあざ笑い、金や目先の利益にこだわるねずみ男が必要なんです。庶民は鬼太郎ではなく、ねずみ男のように生きてきた。ねずみ男がいないと、物語の世界が安定しないわけですよ」
最初の鬼太郎は世をすねた不気味な少年だったが、メジャー誌デビューを境に、その性格を大きく変えざるを得なかった。そのゆがみを補正するため、水木さんはねずみ男に庶民の気持ちを代弁させたのかもれない。
妖怪ファイル>No.15
雪 女
哀切な愛あふれる八雲の作品
東北・北陸といった雪国に多い妖怪「雪女」。言葉を交わすと食い殺すなど、怖ろしいものが多い。ところが明治の随筆家・小泉八雲作のそれは一味違う。
武蔵の国(現東京都青梅市 )の話。吹雪の夜、渡し守(船頭)の小屋できこり2人が雪女に出会い、年寄りは凍死させられたが、若かった巳之吉は口封じされたものの命は助けられた。
翌年、巳之吉は両親を亡くして江戸に向かう途中だという美しい娘、お雪と出会う。2人は結婚し、10人の子を設けるも、お雪の美貌はまるで衰えない。
ある夜、巳之吉はお雪に打ち明けた。「18の頃、夜中に白装束の美しい女が現れ、息を吹きかけ先輩を殺した。自分は命を助けられたが、あれが夢か、雪女か、今でもわからない」と。すると、お雪は正体を現し、「お前は口外しない約束を破った。しかし、子どもたちのために殺さない」と言い残し、白い霧となって天窓から消えたーー。
日本の怪異譚に「不滅の生命」を見ていた八雲の〈雪女〉は、哀切な愛情深さにあふれている。
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ノンフィション作家。境港市生まれ。同郷の先輩である水木しげるさんに約2年間密着取材し、『妖怪と歩く ドキュメント水木しげる』(1994年新潮文庫)※を刊行。主書に『日本海のイカ』『北里大学病院24時』『血脈の日本古代史』など。
※今井書店より復刻版発売中
漫画家・イラストレーター。石川県生まれ、鳥取県育ち。
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